もしも人文系ゼミの教授がガチホモだったら(創作BL)
こんばんは。twitterでちょろっと試したところ一部の方に好評だったので、今日は星井さんメソッドをちょっと真似つつ、かつ極めて狭いターゲットに向けてBLを書くという試みをしてみました。
もしも人文系のゼミ教授がガチホモだったら、というテーマです。では、どうぞ!
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男子学生は悲痛な叫びをあげた。「そ、それは無理です!」
教授の双眸に酷薄な光が宿った。「そうか。ならば単位はやれないよ」
無数の本で埋め尽くされた薄暗い教授室。対峙するふたりはとある人文系のゼミ、その教授と教え子である。学生の足もとには渾身の論文が無惨にも四散している。十数秒前、勢い良く顔面に叩き付けられたものだ。
「ご自分のおっしゃってることがわかっているんですか? ……僕は、そんなのは嫌です!」
しかし教授はにやりとし、学生の耳もとでそっと囁いた。
「ほう? そうは言っても君のポールはもうこんなにヴィリリオじゃないか」
「くっ……」学生は屈辱に顔を顰めた。反射的に全身の力が抜け、ぶらりと腕が垂れ下がる。
「ふふ。それでいい。聞き分けのエーコでパスカルよ。さあ、三本目の葦を見せてくれたまえ。まずはそのシャツの裾をマクルーハン」
流麗に紡ぎ出された人文系キーワード、その見事なコンビネーションに学生は目を見張った。
(メ、メタファからのインターテクスチュアリティー……! いや、これは慣習的な言語コードにおける制約からの解放……? い、いずれにせよ教授は本気ってことだ……。これでは、抵抗をしたところで……!)
やむを得ず、男子学生は自らの服を脱構築。すかさず教授も脱構築。スーツ姿の際には随分と華奢に見えていたのだが、その体格は意外にもガダマー(若者言葉)だ。
つと、教授は誇らかに言い放った。
「ところでこれを見たまえ。こいつをどう思う?」と、股間でブランショしているデュルケームなバフチンを指差す。それは、かのフォルマリストたちも仰天の見事なフォルムであった。
もう、正直に応えるしかなかった。「すごく……、デカルトです」
「だろう、フフフ。では、始めようじゃないか。迷うことなどない、それでマルクスおさまるのだから」
学生は我が身のフーコーを呪った。ああ、俺は何故こんな教授のもとについてしまったのだろう。立派な方だと心底尊敬していたというのに、まさか彼にこんなダーク・サイードがあっただなんて。
(それにしたって、教育者がこんな卑劣なことを口にするだなんてアリストテレス? こんなことが現実にアドルノかよっ……! ルソーだろ……? 誰か、ルソーだと言ってくれッ……!!)
しかし幾ら心中で嘆こうとも、これは紛うことなき現実なのであった。学生はすっと瞼を落とした。
(そうだ、この残酷で無慈悲な世界には何だってアンダーソン……)
抗う術を失った少年兵さながらに、学生は力なく跪いた。ふふ、教授が満足げにほくそ笑む。
「ははは、ソシュールのが賢明だよ。望み通り、君をメタメタにしてあげよう。さあ、まずはその可愛い口でパロールとやってくれたまえ」
学生は意を決し、まだプラトンしたやわらかなバフチンをガブリエル・マルセル。すると一気にマックス・ヴェーバーだ。非常にガタリ。
「ほうら、こんなに奥までハイデッガー」
教授が嗜虐的な態度をあらわにする。眉根に皺を寄せ、学生はただ耐えた。そう、これは単位を得るための代償なのだ。耐えろ。耐えるんだ……!
「さあ、次はこっちだ!」
「あっ!」知らずして大きな声が洩れていた。「そ、そこはダメット……!」
「ふふ、君もなかなかのスピノザじゃないか」と、容赦なく教授は激しいレヴィ=ストロースで学生のアウラをボードリヤール。
「も、もうムリです、教授! ウィ、ウィートゲンにシュタインっ! ……うああっ!」
「はっはっは、そうはラカンよ。いや、『そうはいカント』の方が良かったかな?」
「ああっ、本当にムリですっ! もう、シ、シニフィエです……!」
「ううっ、せ、せめてもっとユングり……! これじゃあ気がクリステヴァッ!」
しかし、もはや教授の耳には何も届いてはいなかった。
「くうっ、アナクシマンドロスが非常にシミュラークルーーーッ!!」
「いっ、イデア!! ああっ、アガペーーーー!!!」
そして、ふたりはキルケゴールに達した。
遅れて、荒い吐息だけが薄暗い部屋にそっと響く。
「はあ、はあ……、最高のエルゴスムだったよ」
「…………うっ、うっ」
沈黙を破くような吐息に嗚咽が入り混じった。すると不意に、教授の顔色が変わった。
「…………乱暴なことをしてすまなかった。しかし私は、君のことがずっと、ノーム…………」
そこで教授のことばは途切れた。続く懺悔を呑み込むかのように口もとが固く引き結ばれる。
ハッとして、学生は面を上げた。ごくりと唾を呑み込む。
(ノーム……? 今、そうおっしゃいましたか……?)
だが、ふたりの視線は絡むことがなかった。教授がその顔を背けたからである。
学生は険のない無防備な声でつぶやいた。
「………………ノーム・チョムスキー?」
あなたは、そうおっしゃりたかったのですか。そうなのですか? だとしたら。だとしたら……!
教授は何も言わなかった。静かな足音、そして昂揚と後悔の余韻を残し、ゆっくりとその場をサルトル……。
(FIN)
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雑ですいませんでした。途中で飽きてすいませんでした。人生で初めて書いたエロ(?)です。全体的にすいませんでした。
次回はマンチェスターのバンド(おマンチェ)でBLをやります(うそ)。